2018,04,01, Sunday
所謂デジ絵(ここでは敢えて2次元デジ絵をCGと書きます)の世界では、タブレットは切っても切れぬアイテムであることはここでわざわざ書く必要がないかと思います。 WACOM社は「WACOMでなければCGは描けない」と言われるくらい(笑)のアマチュア絵描き業界にだけではなく商業絵描きのみならず、ハリウッドのメジャーな映画業界でも使われているくらいに絵描き世界におけるデファクトスタンダードとなっている絵描きデバイスメーカーとなりました。 ボクもCGを始めてかれこれ30年、実際にタブレットを使っての絵描きは90年代中盤からの20年程度ということになりますが、CGを描くためのプラットフォームはDOS(PC-9801/FM-TOWNS)→Mac→Windowsへの変遷がありましたが、絵描きデバイスは一貫してWACOM製品を使い続けてきました。 その間、タブレットも板タブから液晶タブレット(液タブ)、そして自立型のタブレットPC(CCやモバスタ)へと進化しています。 まあこんなに偉そうなこと書いていますが、書いてる人の成果物はその進化に対してどの程度のモノかというとそれほどではないのはもはや言うまでもありません。 本来絵描きは絵描きにおいてこそその実力を示すべきところなのですが、その才に恵まれなかった人の方が絵描きにおいての執着が強かったりしたりするわけでして、ボクもその筋の人なんだなと思ったりした次第です。 ボクの絵描き人生においてはもはや先が見えてきた感じもするので、これまでの絵描きについての昔話を歴代のWACOMタブレットとともに書き留めておこうという非常に個人的な回顧録に近いものになるんだろうなと思いますが、その辺りは皆様に勘案頂ければ幸いです。 ■WTシリーズ ボク等が知っているペンタブレットが開発されたのは1986(昭和61)年になります。 WACOMは創業当初は電気設計用CADである「ECAD」を開発・販売しているので、その延長上のデバイスとしてペンタブレットの開発を始めたのだろうとボクは推測しています。 そしてintuosシリーズに続くタブレットの元祖が、この小型タブレット「WT-460M」という事になっています(公式HP)。 画像を見ると現代のintuos3以降についているファンクションボタンらしきものがタブレット開発当初より想定されていたのは意外な感じです。 ちなみにファンクションボタンの機能は後にタブレットの板面上でボタンではなくその領域を押したらボタンが押されたとみなす形へと変更され、更に前述のようにintuos3では物理ボタンとして復活するという変遷を辿っています。 タブレット全盛の現代においても物理ボタンと画面タッチのボタンでは感触や操作感の問題として重要ですが、その時代の技術トレンドに大きく影響を受けるような形になるのでしょうね。 当時は先進技術を取り入れたつもりでも、後世になってやっぱり微妙な感じじゃね?、ってなるみたいな感じでしょうね。 ペンは妙に高級感のあるメッキ処理がされているようで、新社会人になった時に親戚にもらったボールペンみたいな感じになっています。 Wikipediaなどで開発者(村上東氏)の記事などを読むに、この頃はまだ電池内臓式であったのではないかと推測できます。 所謂『これが特許の電磁誘導方式』を使っているのは次のSDシリーズ以降となるようです。 WTシリーズに関してはこの程度の情報しか得られませんでした。 WT-460M実機を入手できれば世に胸を張ってWACOMタブレットコレクターだと言い切ることができるでしょう。 その日が来ることを願ってやみません。 ■SDシリーズ 翌年1987(昭和62)年にSDシリーズが開発されました。 SD-210 / SD-31x / SD-32x / SD-42xです。 日本では1989(平成元)年にSD-42Aシリーズとしてグッドデザイン賞を受賞していますね。 SD-420Eのネット上で調べて出てくる画像ではなんかディップスイッチらしきものが付いていますし・・・ これはRS-232Cを制御(命令セットとか通信設定とか読取分解能の切り替え)するためのディップスイッチで、この時代の外部デバイスではごく一般的なものであったと思います。同時期のEPSONのスキャナ(GT-6000等)も当然RS-232C介して接続されているので同様のディップスイッチがありましたし、マニュアルにもディップスイッチの解説や命令セットについての記述がありましたね。 インターネットやメーカーHPで技術資料PDFなんかが漁れない時代だったので、本体に分厚いマニュアルを付けざるを得ない時代背景だったと言えます。 ですが逆を言えばそれらがセットで添付されてくるので、ヤル気のある人にとってはそのデバイスを制御するプログラムを書くには不自由することはないというわけです。 作る側にとっては非常に良い時代と言わざるを得ませんね。 SDシリーズについて何かリアルな資料はないのかと探しまして、暫らく前にやっとこのSDシリーズのパンフレット(英語版)を入手することができました。 マニュアルごときにかなりの金額を費やすことになりましたが・・・ ボクは所詮、曲学阿世の徒というか単に学がないのでパンフの訳は到底できないのですが、大まかに描かれていることぐらいはどうにか解りました。 SDシリーズのラインナップは以下の通り。 SD-210L A2サイズ (25"x18") → UD-1825 SD-310E A3サイズ (18"x12") → UD-1218 SD-320E A3+サイズ (15"x15") SD-420E A4+サイズ (12"x12") → UD-1212 SD-510C A5サイズ ( 9"x 6") → ArtPad タブレットは当初から板面の大きさは用紙サイズを基準に設定されています。 デジタイザ的利用の用途の方が多かったからだと思います。 A2~A5サイズまでのモデルがラインナップされていますが、その中に用紙サイズを基準としつつ独自の大きさのモデルが見受けられます。 上記のA3+/A4+という正方形の板面モデルですね。 A3/A4の縦横どちらかに合わせられるという利便性重視のモデルですが、A3+サイズはSD-32xのみ、A4+サイズはIntuos2まで継承されましたが、PCのワイドモニタ(16:9)化が進行すると廃止されてしまいました。 横長のタブレットに使い慣れた今、A4+などの正方形タブレットを使うとしたらマッピング的に微妙な感じになったりするのでしょうね。 SDシリーズの時点で後のWACOM製品のラインナップの基礎が出来ているといっていいのではないかと思います。 まあA5サイズは後のUD-0608として若干の縮小傾向になってしまうのですが(笑) SD-510Cは他のモデルとは違い、センサからの信号処理やRS-232C通信などは外付けのプロセッサユニットに集約し、板面はセンサーのみとなっておりますので板面は非常に薄くなっています。 当時のWACOMには後のArtPadシリーズのように板面の中にセンサやインタフェースのプロセッサを入れることが出来なかったとみるべきでしょうか。 それでもArtPadシリーズよりも薄い板面を実現しているので、当時のWACOMではSD-510Cを板タブの廉価普及版として売り込みたいという意向があったのかも知れません。 兎にも角にもSD-510Cが後のミドルサイズタブレットの先祖となりました。 パンフレットを見るに、SDシリーズについてはほぼMacintosh以外での運用は想定されていなかっただろうと推測されます。 添付のドライバはMac用と記載がありますし、対応アプリケーションもMacだけですし。 この時点でPhotoshopに対応しているとか、WACOMのタブレットはPhtoshopとは切れない縁があるのかも知れません。 WACOMの想定通りにSDシリーズはMac環境での絵描きに使われていた記述を見ることができます。 また調査を続けていると、DOS環境の絵描きに使われている記載をネット上に見つけることができました。 販売時期からみて90年代前半のPC-98やX68k(X68000)で使われているようです。 この時期High Color以上が使えるPCは国産機種ではX68k(64k=65536色)とFM-TOWNS(16M=1677万色)くらいだったのですが、実用的な解像度で絵が描け尚且つソフトウェア文化力の高いのはX68kでしたので、そちらで普及していた模様です。 ArtPadが発売されるまではペンタブレットなどという高価なデバイスは絵描き界隈では夢物語のごとき存在で、現代に置き換えるなら高解像度の液タブ(Cintiq 24HD/27HDQ)のような位置づけと考えて差し支えないと思います。 それなので90年代前半にペンタブレットで絵を描いていたという人々の存在は、Mac/DOSを問わずにかなりの経済力を有していたと見てよいでしょう。 後にArtPadシリーズが普及するとSD-510Cは次第にArtPadやそれ以降のモデルに置き換えられ、更に主なプラットフォームであったMacintoshもADBからUSBへ、MacOSからOSXに移行するにあたってほぼ完全に淘汰され、現在ではほぼお目にかかることができません。 海外版パンフレットは手に入れたものの、さすがに実機までは手に入れることができないだろうとは思っていました。 ですが、たまたま見たネットオークションでSD-510Cを入手することができました。 しかも2台も。 1台目は本体のみですが、もう1台は海外版の(ほぼ)完品という非常にレアなものが入手でき、タブレットコレクターとしてはまさに本懐であると言っていいでしょう。 成し遂げたぜ。 これは・・・!! まるで昔のPCの外付けHDDのような感じです。PC-9801の本体の横にあっても何ら違和感のないデザインです。 他のSDシリーズは本体サイズが大きかったし厚ぼったかったので、メカ部分(メイン基板)を本体内に収めることができたのでしょうけど、SDシリーズではそれが難しかったので敢えて外付けにしたという事でしょうか?。 どうせメイン基板を外部に出してしまうのなら、デジタイザ部分はできるだけ薄くして取り回しをよくしようとしたのでしょう。 デジタイザ部分は後のArtPadシリーズ的な薄さを実現していますし。 これはMachintosh用らしいのですが、別にADBポートがくっ付いてるわけではなくてRS-232C接続となっています(Mac的にはRS-422ですかね)。それなのでケーブルさえあればMacだけではなくWindows(DOS/V機)に接続することができます。 ・・・と、いうことで早速外観からですが、どうしても気になってしまいますよね。 一体この箱は何なんでしょうね(今更)? なんかTABLET PROCESSORと書いてありますね。 Intuos(初代)シリーズ以前は、ペンの位置・傾き・筆圧などの情報は板面に実装されたプロセッサよって処理されていました。 SDシリーズも当然板面のプロセッサによって演算処理されていますが、SD-510Cに関しては薄さを追求したため、外付けとなりました。 SD-510Cは外付けインターフェースとしたためにArtPad並の薄さを得た、とすることができるでしょう。板面の取り回しに特化するための副産物だったのか、今後の方針としてプロセッサユニットの小型化・内臓化を視野に入れての薄さ追求だったのか、ともかくもいかにも黎明期的な外観をしています。 ペンもまだサイドスイッチやテールスイッチはありませんね。 このペンにはストロークがあり、ボクがIntos4/5/Pro(旧)で使っているバネ入りのストロークペンのようにペン先が沈み込みます。 標準でこれだけペン先のストロークがあるのはかなり驚きだと思います。 さて。 前述の通りこのSD-510CはDOSマシンで動かせるようですが、果たして本当でしょうか? 自前のDOS環境で試してみましょう。 ここ数年ネットオークションなどでかつて使っていたレトロPCを買い漁っています。 今回は先程のPC-9801 DA/U2ではなく、PC-9801ノート最速(i486搭載)のPC-9801 NS/Aにて試してみましょう。 初代Intuos以前のタブレットはDOSはRS-232C接続、MacはRS-232C/ADB(RS-422)接続です。 PC-9801 NS/AのRS-232Cインタフェースはハーフピッチ14pコネクタをD-Sub25p→9pに変換してPROCESSORユニットに接続します。 もうケーブルの規格を書いている時点で懐かしすぎて爆死してしまいそうですね(笑)。 接続的にはケーブルさえ繋げば問題はないのですが、ドライバがなければただ線でつないだだけです。 ちなみにDOSにはPnPなんていう都合の良いものはないのでDOS用のドライバがないと認識させることはできませんし、当然動かすこともできません。 今回はたまたまDOS用のフリーソフトでSDシリーズやUDシリーズの制御に使われているWACOMII規格に対応しているマウスドライバを見つけることができたので、これを使います。 というかこれが見つからなければこの企画は実現することができませんでした。 すごいよベクターさん! ありがとうベクターさん!! ありがとうソフトの作者さん!!!!11112 ケーブルを接続してDOSを起動させます。 既にマルチペイントなんかはインストールしてあります。 タブレットドライバを常駐させて起動すれば動くはず。 ・・・なわけなく、この手のDOSドライバは当たり前ですが自動設定はしてくれないので、SD-510Cの電源を入れてタブレットドライバを常駐させますが、通信エラーが出て動きません。 PC-98本体のRS-232Cやドライバの通信設定などをいじくっても、上手くタブレットと通信ができていない様子。 もうRS-232Cの転送速度とかストップビットとかパリティビットとか。 そもそも本体のディップスイッチSW2-5(メモリスイッチ)とかすっかり忘れてました。 PC-9801 VX/RXなどの旧い機種では実際にディップスイッチが実装されいるのですが、DAや今回のNS/Aなどはソフトウェア設定(起動時にHELPキー押下)になってしまったので、そこら辺の記憶がすっかり忘却の彼方へ行きそうになってしまいそうになっていますね。 RS-232Cの通信が上手くいかなければこの企画もここまでかと思われたのですが、ここでタブレット本体(PROCESSORユニット)にもディップスイッチの設定があったなーと思いだしマニュアルなんかを見てみましたが、当時のボクならいざ知らず、すっかりWindowsに慣らされてしまったボクには正直よく解らないので、海外完品と同じディップスイッチ設定にしてみました。 そしてタブレットドライバを常駐させます。 お!? 今度は通信エラー吐かないぞ。 ペンを板面に持って行くとマウスカーソルが反応します。 ただしずっとクリック状態のままになっているようなので、マルチペイントだと延々と線を引いてしまいますね。 でも左クリックは反応しますね。 ディップスイッチ設定の問題なのでしょうかね。 PCを起動して初回のみだけ動くとかよく解らない感じですのでちゃんと動いたのかというと微妙過ぎる結果ですかね。 設定を煮詰めればきちんと動かせそうな感じですが、ともかく今回の企画であるSD-510Cの実機を動かしてみるという企画はひとまず及第点といったところでしょうかね? いやー本当は当時のMacで動かせれば何も言う事はないのですがねー まだレトロPCのコレクションはMSXとかPC-98とかFM-TOWNSなどDOSマシンが中心でMacはあいにく無いので・・・・・・ 機会(と資金力)があればMacintosh LCIIとかIIfxとかでPhotoshop上でSD-510Cを動かしてみたいですね。 次回はSDシリーズより発展し、90年代のCG(絵描き)シーンを語る上で外すことのできないUDシリーズです。 ボクも実際にこのUDシリーズからWACOM製品を使い始めた思い入れの深いタブレットシリーズです。 それではまた。
| ヲタク::PCとか | 04:05 AM | comments (x) | trackback (x) |
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